リカバリー | ||Φ|(T|T|)|Φ||    監獄☆日記    ||Φ|(T|T|)|Φ||

リカバリー

 先日手術後の経過を見る外来通院があって、前回書いた若くして糖尿病の人を見舞い、ついでに話し込んでしまった。

 話をしていて思ったことは、「人生の立て直し」ということだった。

 

 つまづかないのが一番いいことだが、人生には時としてカネでつまづくとか、女でつまづくとか、警察に捕まるとか、いろいろな「つまづき」があるものだ。

 その中でも「体を壊す」というのが一番キツイつまづきで、しかも歩けなくなって目も見えなくなるとは、その中でも最上級に類するのものではないかと思う。

 ただ私が言うのも変だが、「覆水盆に帰らず」というか、嘆いてもなってしまったものは仕方がないとも思うのだ。

 大切なことは、そこからどうリカバリーするかということだと思う。

 

 彼は親兄弟とも疎遠で、いまは生活保護を受けているという。

 生活保護を受けているということについて、私には別に偏見や蔑視はない。

 年金を受け取るのに必要な被保険者期間を満たさず老年になってしまった人も生活保護を受けているが、そういう人たちが死ぬまで生活保護を受け続けることになるのに比べて(それとて悪いことではない。最後のセーフティネットだからである)、若い人の場合は将来働ける状態になったらまた働き始めて、納税という形で「借りを返す」ことになるからだ。

 

 その意味で生活保護制度は、「人生の立て直し」のための重要な一手段ということになるのだが、問題は、福祉がもともと「金食い虫」であるところに加えて、税収の減少でどこも出し渋っていることだ。

 今までの仕事ができなくなるとなれば新たなスキルを身につける必要があるが、生活保護制度にはそもそも公費による職業訓練制度が整備されているし、被保護者が多額の借金を抱えていた場合などは、弁護士費用を立て替えて自己破産させる仕組みなどもある。

 ただしそれらには前述の「出し渋り」があって、役所のケースワーカーから「あなたの場合はこうしたほうがいいと思います」というようなアドバイスはなく、本人が知っていないと話題にすら上らないものだ。

 

 私は先輩が役所の福祉課に就職したことや、社会福祉学を学んでいた昔の知り合いがケースワーカーになったこともあって、私自身も興味を持ち生活保護制度について、多少知ってはいる。

 だから私はとりあえず、借金があるという彼に対して、「とりあえず市役所の担当者に電話を入れて全てを相談し、借金を片付けること」を勧めた。とにもかくにもお金の問題は大きく、「お金のことさえどうにかなれば後はどうとでもなる」ということも多いからだ。

 そのうえで今はほとんど機能を停止している下半身のリハビリを心置きなく進め、そこにある程度メドが立ったら職業訓練を受け、十分体力と自信がついたら就職し社会復帰すればいいというアドバイスをした。就職の前段階には、福祉作業所でのリハビリを兼ねた軽作業を入れてもいい。

 おそらくそれが、ベストだと思う。

 

 彼は、弁護士費用の立替も職業訓練も「知らなかった」と言っていた。

 知っていさえすれば、独りで悶々と悩むこともなかっただろうに…。

 彼にいま一番必要なことは、「外部とつながる」ということだと思う。

 

 私にはトラブルが起きたときの行動指針が2つある。

 ひとつは「自分の手に負えないと思ったときは素直に外部に助けを求める」ということで、そしてもうひとつは「専門家に助力を仰ぐ」ということである。

 全て自分で何とかしようと思ってますます泥沼にはまり込んでしまったりすることはよくあることだし、また自分で多少知識を得たところで、それでメシを食っている専門家の知識には及びもつかない。専門家には専門家のノウハウがあるものだ。

 

 メールアドレスを教えてくれといわれたのでとりあえずアドレスだけは教えたが、正直な話私はいまあまり筋のよくない人間とは関わりあいたくないという立場だ。

 彼について筋がよくないと決め付けたわけではないが、私は事情を聞いてしまった者ができる善意としてのアドバイスは伝えたのだし、これ以上「導く」つもりもないし、頼られたくもない。

 あとは彼自身がどうするか、だと思っている。

 

 あれ? だったら俺は何で他人の相談に親身に乗っているんだろう…と考えて、ふと気がついた。

 私がしていることは、「男」があの場所で私に対してしてくれたことと同じことだ。

 人は誰かに無償の恩を受けると、その後自分ができるようになったときに、誰かに対して同じことをしたくなるのかもしれない。