平成16年6月3日(木) 勾留24日目
昨晩、就寝前の洗面時間、寡黙な男が怒った。看守に対してだ。
男はナザールという鼻炎用スプレーの購入を願い出ていたのだが、理由も示されずに却下され、またおそらく新任であろう幼い看守の、口の利き方が横柄だと怒ったのだ。
激情に任せて怒鳴り散らすわけではなく、理路整然としていて、自分の意思を正確に相手に伝えようとしているように、私には見えた。
当直の刑事がゾロゾロと何十人も集まってきていたが、怯む様子はない。
犯罪者には珍しいタイプで、筋が通っているものだから、看守も言い分を聞かざるを得ない。
で、看守の男に対する態度と扱いが、極端に変わった。
ナザールも近所のドラッグストアで、その晩のうちに看守によって買ってこられた。
私は逮捕から3週間以上も、コンタクトレンズを外していない。
しかし昨夜は同房のヤクザの厚意で、洗浄液を貸してもらい、久しぶりに外して眠ることができた。
でもいつまでも借りているわけにはいかないし、基本的に留置場で物の貸し借りはよくないということで、例のイケメン看守が近所のドラッグストアで買ってきてくれることになった。
そこで私は、「NEWコンプリート」を頼んだのだが、NEWは売り切れだったということで、普通のコンプリートだった。とりあえず今夜からは、眼病の心配なく眠れそうだ。
隣の房の中国人が、裁判に行った。
バス運転手を殴ったうえに、偽造運転免許証と偽造パスポートを所持していた男だ。
私は一度、風呂で一緒になったことがある。包茎だった。
看守同士の話を漏れ聞くところでは、判決は懲役2年6月の執行猶予5年、よって強制送還だ。
たまらなく、外へ出たいなあと思う。
保険金詐欺が、「1か月目ぐらいがいちばん辛かった」と言っていた。
揚げ物の多い仕出し弁当然り、精神的な辛さ然り。
そして私も、今が本当に辛い。
男が、いくつかの辛さと不自由さに耐えるのは、ここでは当たり前のことだと言っていた。
1.退屈に耐える 2.空腹感に耐える 3.不自由さに耐える
【余白メモ】
残金 1,029円
【過去の過ちを振り返って】
外国人の場合、懲役刑ならば日本で服役してからの強制送還、執行猶予ならば直ちに強制送還となる。
傍聴席に入管職員が待機していて、判決の言渡し後、身柄を刑務官なり警察官なりから引き受け、入管へ移送するのである。
不法滞在中国人が保険金詐欺への手紙で伝えてきたところによると、入管では国際電話が使用できたり、コーヒーやタバコを喫食できたり、シャワーが毎日使えたりするという。